宝塚歌劇団・月組公演『フリューゲル -君がくれた翼-』のS席1階席での観劇です。
「S1別れ-1961夏-」、ずいぶんとむかしから物語が始まります。エミリア・ハインリッヒ(白雪さち花)とヨナス(朝香ゆらら)、若い母と息子は父親のお墓参りに行く途中、ドイツ連邦刑事局の刑事たち(彩路ゆりか、爽悠季、静音ほたる)が突然現れ母親を連行します。刑事たちの態度も口調も厳しいので、観ている方もこわばってしまいます。女刑事の目が冷たくて怖かった。これって所謂ナチ狩りの刑事だったのですね、そこには深い憎しみもあったのでしょう。
「S3ドイツ民主共和国」、物理学者と称する女性アンジー(桃歌雪)が登場し狂言回しのような役割をします。このアンジーはアンゲラ・メルケルのオマージュだと思いました。
「S4ナディア・シュナイダー」、奇抜な衣装のナディア・シュナイダー(海乃美月)のコンサート会場、「カラーフィルムを忘れたのね」の歌手ニナ・ハーゲンを連想します。自由奔放で我がまま放題なところも似ています。
「S5真夜中の教会」、ヘルムート・ヴォルフ(鳳月杏)が登場するシーンです。ヘルムートはヨナス・ハインリッヒ(月城かなと)の大学時代の同期ですがシュタージ(国家保安省)の人間、この物語がベルリンの壁の崩壊へ向かう物語ですから、ヘルムートもまた滅びへと向かうと観客は予感するのです。
「S13危機一髪」、工作員が仕掛けた爆発物をヨナスたちが懸命に探すシーン、なんと彼らは客席まで探索にくるのです。人民軍の広報部長のゾフィア・バーデン大佐(梨花ますみ)はじめ広報部員が客席を探索します。
すぐそばにピエール・ベック(英かおと)が立っていて、ハンド式探知機をこちらに向けられた時、サプライズ過ぎてharugotatsuはこわばった顔をしていたと思います。
うれしいことに、サイドブロックと壁側の通路も探索に来ます。
「S15歓喜の歌」、デモに参加している学生たち、警官に反抗して自由を訴えている女学生(朝香ゆらら、静音ほたる、奏羽美緒)。彼女たちが、「自由な人々による開かれた国」を訴えてデモをしたカトリン・ハッテンハウワーなのでしょう。
東ドイツ市民が壁の向うにぞくぞくと出て来たとき、あの狂言回しの物理学者アンジーが西の世界を「カラーフィルムのようだ」と言います。
「S16君がくれた翼」、S1で別れた母と息子がやっと再会します。しかし、母は記憶を無くし息子が分かりません。それでも、「あなたのこと好きよ、また会いに来て」という母の台詞に救われます。
泪なしでは見れない名場面です。
『フリューゲル』は、ハートフルコメディ、観客が笑うシーンがほとんどです。
自由がない東ドイツの世界、秘密警察、盗聴、国境検問所、音楽の統制、集会の禁止などの話も出てきますが、過度に暗く怖ろしいものにならないように上手に表現しています。
ミュージカルとしての創作と散りばめられた史実が交錯し、物語を心の中では真実であると思わせる作品です。